スイス人に紹介された本
今回紹介するのはSwiss Watching: Inside the Land of Milk and Money。いろんな幸運からスイスで1年間働く機会があり、その間に職場のスイス人から紹介してもらった本です。2013年の最後にKindle Paperwhiteで読んだ最初の本でもあります。
理由がありスイスに移住したイギリス人著者が外国人の立場からスイスを書いた本です。非スイス人という共通の目線(世の中のほとんどの人は非スイス人ですが)で語られているので自分がスイスについて思ったことと重なる部分がいくつかありました。
まずなんと言ってもスイスに行く前の時点ではスイスのことを全然知らないなと。
アメリカなんかはテレビや映画の影響でなんとなくこうだろうというイメージが沸きます(それが必ずしも正しいとは限りません)がスイスは「自然、チョコ、金融、時計、ハイジ」くらい。
比較的近いイギリス人の作家ですらよくわからない国であり隣のドイツやイタリアからは退屈な国だとまでも言われちゃう国ですが実際のところは面白い国なんです。
以下内容を紹介。
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スイス人について
スイス人については保守的でありながら安楽死やドラッグの使用に寛容なリベラルな面も持ち、テクノロジーについてはクリエイティブな面も持つ人達という取り上げ方をしています。
個人的にスイスにいた時に感じたのは:
・案外騒ぐ人が多い
→静かな人ばかりだと思っていたのですが案外騒々しかったです
・割と冗談を言う
・親切だけど距離を置く人が多い
・とは言え駅や電車内で話しかけづらいということはない
・基本的に時間は守るけど柔軟性も持ち合わせている
・「英語話せる?」「少しだけね」と言うやり取りの後の流暢な英語
→銀行でバイトをしていた10代の若者がこのやり取りの後に何の問題もなく
住所変更をしてくれました
政治について
個人的に印象に残っていて人に伝えたいなと思ったのは政治についてで、国民投票でいろんなことを決めるので国民一人一人の力が強いという点。
スイス国民なら誰でも法案を提案することができて、一定数の署名を集められれば国会に提出できます。その後国会で内容を調整して国民投票にかけるという方式です。
そういえば2013年の夏頃にベルンで何千万スイスフランに値する硬貨をばらまくイベントがあったのですがあれはベーシックインカム導入の法案を国会に出すのに必要な票集めのためのものだったようです。
そんなんなので議会を構成するのは7人のみで、その7人で担当大臣を回していきます。面白いのは大統領もルーティーンで回ってくるということです。
あと学校の体育の授業は教育担当の大臣じゃなくて国防担当の大臣の責任になるとか。
国民投票でいろんなことが決まるので大統領の仕事は国際会議でのスピーチや法案可決の時の署名くらいで、1年の任期が終了したらまた別の人に受け渡すみたいです。
それだと歴史上偉大な大統領っているんですかね。
その割には遅い女性への選挙権付与
これを聞くと民主主義の進んでる国という印象を受けますが、女性に選挙権が与えられたのは遅くて1971年です。
1959年の時点で国会の承認は得ていましたが、国民投票での(男性の)反対が多くて法案が通るまで12年もかかったようです。
AppenzellのInnerrhodenではさらに遅れて1991年まで女性に選挙権が与えられなかったみたいです。
しかもこのカントン(州のようなもの)では14世紀以降変わらず挙手による投票が行われてるというから驚きです。
ここでいいなと思ったのはこれだけ変化するのに時間がかかる国では“Change would not be a winning theme in Switzerland“だと。
2008年にスイス人がもう少し大声出してくれればよかったのに。
公用語と国記号について
また、公用語が4つ(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語)あることから国の名称が9通りあることにも触れた上で国記号にも触れています。
ドイツはDeutschland のDやDE、フランスはFranceのFやFrですがスイスの国記号はCHです。
これはナポレオン時代辺りのロマン族による名称Confoederatio Helveticaの略なのだとか。スイスフランの通貨コードもCHFですね。
ちなみにクロアチアの国記号はCRではなく、クロアチア語でクロアチアを意味するHrvatskaの略でHRです。
CRはコスタリカ。でスロベニアはSVじゃなくてSL。SVはエルサルバドル。この辺りは間違いやすいので注意しましょう。
個人的に興味のあるスイスドイツ語についても触れています。俗に高地ドイツ語と言われるいわゆるドイツ語と違いスイスドイツ語は統一された書き言葉がありません。
それまで新聞や学校での書き言葉は高地ドイツ語を使うことが多かったようですがSNSやSMSの普及で最近はスイスドイツ語で書く人も多いとか。ただ統一された書き方はないので音を当ててるだけのようです。
「スイスドイツ語」を意味するドイツ語は”Schweizerdeutsch”ですが、スイスドイツ語では”Schwiizerdütsch”、”Schwyzerdütsch”、”Schwiizertüütsch”等々いろんな書き方があります。
スイスに対する批判
スイスや北欧諸国はなんとなくいい面だけ取り上げられることが多い印象ですがこの本ではスイスに対する批判もしています。
いくつか例を挙げると:
・第二次大戦中戦後の資金にナチスからの預金を使った(返済済み)
・武器を69カ国に輸出してる(一時期禁止するも2009年の国民投票により再開)
・移民排斥活動が盛ん
など。
本の最後の方でその辺りは黒か白じゃないと言っていますがそのまとめ方が秀逸で、Schwarz (ドイツ語で黒) とWeiss (ドイツ語で白) を混ぜるとSchweiz (ドイツ語でスイス)になると。
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スイスからの帰国後、「スイス人ってみんな核シェルターを持ってるんでしょ?」といったことを聞かれることが多々ありましたが、生憎核シェルターを見ることはありませんでした。
ただ自分が住んだ家4軒すべて地下に洗濯室があり、洗濯室のくせにドアがものすごく厚くて重かったのが不思議で。。。
どうやらあれが核シェルターになっていたのだと本書を読んでいろいろと繋がりました。
読みやすい本なのでスイスに興味のある人は読んでみるといいかもしれません。
2020年6月5日の段階でなぜか240円という破格の値段になっていますし。
また読み返すことになりそうな本です。