スイスで家から追い出された話

2011年9月、チューリッヒでの話

2011年の9月、大学を休学してスイスで1年間のインターンを始めた月の終わりに急に家から追い出されることになった時の話。インターンを斡旋してくれた組織が手配してくれた家に住んでいたのですがその家と契約をしていた元フラットメイトが引っ越すとのことで自分も引っ越さなければいけなくなり苦労した話です。新天地でフルタイムで働きつつ1週間で新しい家を探さなければいけないという理不尽な状況に追い込まれたものの今思えば結果オーライどころでは済まないところまで昇華できたという話です。

それまで住んでいたところ

スイスに行き最初に住んだ家は職場まで歩いて10分程という表面上便利なところでした。2LDKの1部屋が12㎡でCHF700(当時のレートで62,000円程。なお光熱費等すべて込み)で借りられたのでお値段的には悪くはありません。

しかし住所的にはチューリッヒとはいえチューリッヒ市街まで電車で30分程離れていて、周りを見渡しても草を食べている牛がいるくらい、娯楽施設は図書館と郵便局くらい、という環境でした。

また、同僚と話をしていてもスイスに来たのであればチューリッヒ市街地に住んでこの国の文化に触れるべきだと言う意見が多かったのでフラットメイトに「近いうちに引っ越すかもしれない」ということを伝えました。

1週間で出て行けと言われる

そんなこんなで働き始めて何の問題もなく最初の1ヵ月が終わろうとしていたある晩、フラットメイトと料理をしながら台所で話をしました。

そして食事が終わり部屋に戻る直前に彼は言いました。

ああそういえばこの前引っ越すって言ってたけど家は見つかった?今月末に引っ越すから出てもらうことになるんだけど

内に秘めた感情を外に表現するのが下手な自分は「そうなんだ。まだ見つかってないわ」とだけ言ってすぐに部屋のドアを閉めました。

ドアを閉めた後、静かにパニックに陥りながらチューリッヒでの住宅情報をググり始めました。

「審判の言うことは絶対」と言う少年野球精神で育てられた自分はその場で抗議をするというアティチュードを持ち合わせていなかったのです。

チューリッヒの住宅事情

その日の夜に必死でググったり翌日職場で同僚に状況を話したりした結果、WG Zimmerというサイトが非常に役に立つことが分かりました。ドイツ語圏で家を探す際にWG( Wohngemeinschaft ≒ シェアハウス的なもの)という単語は非常に重要になります。他にCraigslistというP2Pサイトのチューリッヒ版も頻繁に確認しました。

どちらも明らかな詐欺物件が掲載されている(「今はアメリカにいるから写真だけ見てお金を振り込んでくれ、入金を確認したら鍵を郵送する」等々)ので注意が必要ですが1日10~30件もメールをしているとちゃんとした人からも返事が来るので1日に2~3件内覧のアポを取ることができました。

時期的にホットだった福島原発事故を受けて環境問題に盲目的に熱心だった老夫婦の家や職場近くに住んでいる若者嫌い風の夫婦、職場から遠くに住んでいる若い学生のシェアハウス等々、色々な家を見て回りました。

ホステル暮らしは避けたかったこと、ちょうどオクトーバーフェストの時期で友人と10月の始めにオクトーバーフェストに行くことを約束していたこともありなんとしても9月中に家を決めなければならない状況で必死に家を周っていました。

期限2日前に家が見つかる

勝手に設定された期限の2日前、職場から1時間程離れたエリアにある学生が住んでいる家のドイツ人から連絡がありました。

そこは修士課程のドイツ人とアルメニア人カップルの住む家でした。自分が住む可能性のある部屋で面接をして、静かに話が弾むという不思議な経験をしたところでもあります。

そのドイツ人曰く、自分が最有力候補なので興味があれば連絡をして欲しいと。

すぐに連絡をして話をまとめました。

20㎡で家具付き、光熱費等々込みで毎月CHF400(当時のレートで35000円程、光熱費等々全部込み)という冗談のような家賃に加えて話の合う人達と一緒に住めるとのことで即決でした。

そもそも他の選択肢なんてなかったですし。

決断の翌々日に引っ越し

2011年9月30日金曜日、仕事を終えた自分はスーツケースとバックパック、その他紙袋的なものに自分の荷物ををまとめて新しい家へと向かいました。契約前日にも関わらず受け入れてくれたドイツ人フラットメイトには感謝しても感謝しきれません。

必要な荷物を全て1回の電車で移動させたことに気分を良くした自分は新居でぐっすり眠り翌朝オクトーバーフェストに向かうのでした。

結局1年間で3回引っ越しをすることに

応急処置的に見つけた家ではありますがそこも又貸し的に住む人を探していたため、4か月後にまた引っ越しをすることになりました。

次の引っ越し先は友人からの紹介で見つけた家だったのですがそこも3月と4月だけの2か月だけの短期契約(CHF500/月、光熱費等々全部込み)で5月になったら引っ越しをすることとなりました。

その時もWG Zimmerが非常に役に立ちました。5月以降の家賃はCHF800(当時のレートで64,000円、光熱費等々全部込み)で以前の家と比べると少々お高いですがスイスという基準を考えると非常に安価で家に住めていたのだなと思います。

フラットメイトとは特別な関係に

ある程度の期間一緒に住んでいる人とは特別な関係になれます。お互い酷く嫌っているとか譲れない面がある、という場合は違うかもしれませんが自分はそういうこだわりがあまりないので今までハウスをシェアした人とはいい関係を築けていると勝手ながら思っています。

何よりも、最初の家を追い出されることになったことで知り合った人とは生涯の友人になれたと思っています。上記のドイツ人はドイツの空港で警察に捕まった時パスポートのスキャンを送ってくれた人ですし、2014年には彼の結婚式にも参加させてもらいました。また、当時一緒に住んでいたアルメニア人カップルの結婚式に参加するためアルメニアにも行きました。

自分が結婚することになれば多分来てくれることでしょう。

結局何とかなる

本当に必要に迫られれば家を本気で探すもので、今まで何度も急に家を出ることになりましたがなんとか期日までに家を見つけることができました。

2015年に東京で仕事を見つけた時も2週間程で職場から30分程の練馬にあるシェアハウス(52,000円/月、家具付き光熱費等々全部込み)を見つけましたし、2018年の半ばにそのシェアハウスに嫌気がさした時も10日程で西新宿にあるシェアハウス(55,000円/月、家具付き光熱費等々全部込み)を見つけられました。

家探しのメンタリティを鍛えられたのが2011年9月の経験だったのかなと思っています。何が欲しいか、何が必要か、何があれば幸せか、なんて自分基準で決められるのでいくらでもコントロールできますしね。

次回は東京でのシェアハウスについて書きます。